抗うつ薬について


日本でうつ病患者数が急増した理由の一つは、約10年前にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という新しいタイプの抗うつ薬が登場したことにあります。それまで、抗うつ薬の主流派「三環系」や「四環系」と呼ばれるタイプでした。この2つのタイプは有効性に優れているものの、副作用が強いため、使い勝手が悪かったのです。

SSRIは三環系や四環系から副作用に関係する作用を取り除き、抗うつ効果に関係する部分を一つだけ残すかたちで開発されました。副作用が軽減されたことで、医師は処方しやすく患者は飲みやすくなったのです。うつ病という病気の認識が広まるとともに、SSRIで治療しようという受診者が増えていったのです。

その後、SSRIに続いてSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの新タイプが登場しました。三環系や四環系は新規抗うつ薬で効果が足りないケースなどに使われる二番手以降の薬となり、3タイプの新規抗うつ薬が薬物治療の主流となった。

うつ病では脳の神経細胞に異変が起きます。神経細胞と神経細胞の隙間にある情報伝達役を担う神経伝達物質が減り、受け手の神経細胞に情報が伝わりにくくなって感情や思考が鈍くなるのです。抗うつ薬はこの脳の神経細胞に働きかけるものです。

新規抗うつ薬の効き方をイメージした図にあるように通常はセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質は神経細胞から放出されると、受け手の神経細胞の受容体に結合して情報を伝達します。また、放出された神経伝達物質は元の神経細胞に再び取り込まれるのです。

この仕組みの中でSSRIは、元の神経細胞がセロトニンを再び取り込む部分にふたをし、取り込みが行われないようにして神経細胞間にセロトニンの量を増やします。セロトニンの再取り込みだけを選択的にブロックするので、うつ病に関係のないさまざまな神経伝達物質にまで作用する三環系や四環系に比べ、副作用が抑えられます。
SNRIはセロトニンだけでなくノルアドレナリンを再び取り込む部分にもふたをします。二つの神経伝達物質へ選択的に作用するので、やはり副作用は旧来の薬よりも少ないのです。

NaSSA
2009年に登場したNaSSAの効き方は、他の二つと一線を画していて、セロトニンを放出する神経細胞とノルアドレナリンを放出する神経細胞を刺激して、セロトニンやノルアドレナリンがもっと放出されるように促すのです。神経細胞の蛇口を開けるようなイメージです。
さらに、NaSSAは受け手となるセロトニン受容体を持つ神経細胞にも働きかけます。抗うつ効果につながるタイプの受容体にセロトニンがより多く取り込まれるよう、抗うつ効果につながらないタイプのセロトニン受容体にふたをしてしまうのです。こうした効き方の違いが、3タイプの具体的な効果を特徴づけています。
セロトニンが増えると、不安感が和らぎ、気分が楽になります。ですから、SSRIは焦燥感や不安が強いうつ状態に効きやすいのです。具体的な薬としては「デプロメール/ルボックス」「パキシル」「ジェイゾロフト」、そして2011年に発売された「レクサプロ」の四つがあります。

ノルアドレナリンが増えると、意欲が高まります。したがってSNRIは気力低下時に活力を高めます。
このタイプの薬は「トレドミン」と10年に発売された「サイバルタ」の2つです。
2009年に「リフレックス/レメロン」が発売されたNaSSAのタイプについては、効き方が他と異なるだけに特徴もユニークです。

不安を鎮める鎮静作用も持つとともに、ノルアドレナリンを刺激する働きが強いため意欲の改善も期待できます。
またセロトニン受容体のうち抗うつ効果に関連しているタイプ以外の受容体をブロックするので、他のタイプが持つ消化器症状や性機能障害の副作用がなく、一方で抗ヒスタミン作用が働くために眠気の副作用があります。

新規抗うつ薬で治療を開始するときには、最初にまず我慢が必要になります。
抗うつ薬効果が表れるまでにSSRIやSNRIで一般的に2~4習慣、NaSSAで1~2週間かかります。一方で副作用は飲み始めてすぐに出ます。
SSRIで吐き気やおう吐などの消化器症状が出たり、NaSSAでは眠気を感じります。
もっとも眠気については、うつ病患者は不眠症状を持つことが多いため、プラスに働くと考える医師もいます。これらの副作用は次第に消えていくのですが、その前の段階でギブアップしてしまう患者もいます。
ですから、まず副作用が先に出て、その後に効果が表れるということを事前に医師に説明を受けることは治療を進めていく中で大切です。
特に治療開始初期は焦燥感や不安、衝動性などが強まることもあるので、異変を感じたらただちに医師に相談するようにしましょう。

最初に選んだ薬で効果が十分に出なかったり、副作用が強く出た場合には、他の抗うつ薬に切り替えるという選択肢もあります。症状によっては抗不安薬や睡眠薬、気分安定薬などが併用されることもあります。
うつ病の薬物治療では、1種類の抗うつ薬を効果が出るまで増量し、じっくり様子を見ながら十分な期間投与する「単剤を十分量、十分期間」が原則ですが、現場で患者を診ると、症状も多様で「薬理作用の理論通りにならないことが多い」という医師の本音もあるくらいで、抗うつ薬の有効率は6~7割であるといいます。

そして、抗うつ薬による薬物治療でやってはいけないことは、副作用を嫌ったり、効果を実感できないことを理由に、患者が自分の判断で急に服用を注視してしまうことです。
抗うつ薬はいきなりやめると、めまい、頭痛、吐き気、腹痛などの症状に襲われる可能性があります。中止するときには薬の量を徐々に減らしていくことが必要です。必ず医師に相談して指示を仰ぎましょう。


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